「中学校期における豊かなスポーツライフの実現のために」 

                    ― 通学区域の弾力的運用のあり方について (指針) ―

についての和教組の見解と意見

 

2009年10月7日

和歌山県教職員組合

常任執行委員会

■はじめに

和歌山県教育委員会は、09年9月3日に「中学校期における豊かなスポーツライフの実現のために」― 通学区域の弾力的運用のあり方について(指針) ―(以下「指針」)を決定しました。その内容は、要するに中学校の運動部活動にかかわって、通学区域を超えた中学校に進学できるようにするというものです。

この方針は、中学校教育の全体を考慮せず、後に述べるように「競技スポーツ育成偏重」の方針といえます。実施主体は、設置者である市町村教委になります。市町村教委は、「指針」に基づく弾力的運用を行わないようにすべきであると考えます。

 

1、「指針」の通学区域の弾力的運用の内容

(1) 「指針」では、次のような運用パターンが例示されています。

@ 市町村内の運用

就学を指定された中学校に児童が希望する運動部がない場合、市町村教委内の最寄の中学校に就学を許可する。

A 市町村を超えての運用

市町村内のすべての中学校に希望する運動部がない場合、該当する中学校を所管する市町村教育委員会と通学上の安全確保等について協議を行い、双方の教委が承認した場合、就学を許可する。

B 児童の特性を延ばすことを目的とした運用

(ア) 体力・運動能力に特筆すべきものがあり、県教育委員会から認定を受けた児童(例:ゴールデンキッズに認定され育成プログラム(3年間)を継続した児童 

(イ) 小学校期に全国大会等で優れた実績を収めた児童 

(ウ) 限られた中学校に設置しているスポーツ種目の運動部を希望し、当該種目の技量が相当程度高いと認められる児童(例:すもう、ホッケー、ハンドボール、体操、バトミントン、空手道 等)の場合

 

これらの場合、就学を指定された中学校に希望する運動部があるなしにかかわらず、強化指定中学校等に就学を許可する。(公共交通機関により通学可能であることなどの基準に基づき、双方の教育委員会で協議承認が必要)

 

 

(2) 「通学区域の弾力的運用」の導入は、最終的に市町村教委が判断し、規則あるいは要綱などをつくり運用することになります。

 

 

2、「指針」の考え方の問題点

(1) 中学校の部活動を、一面的な視点からしか見ていない「指針」の立場

中学校の教育活動の中で、部活動の果たしている役割はたいへん大きなものがあります。しかし、「指針」は運動部活動の問題だけを扱い、文化部の問題は、まったく放置しています。それは、「中学生に、部活動を含めたより有意義な中学校生活を送れるようにさせてやりたい」という思いや願いから論じているのではなく、特定の視点や問題意識から論じているからです。

小学生の時代に社会体育で行ってきたスポーツ種目が当該中学校の部活動にないことや優秀なジュニア競技者の県外流出などを問題視し、6年後の2015年和歌山国体にむけた中学生を含むジュニア層の競技力向上という点から中学校の部活動を論じています。

論議の視点を、「子どもたちにとっての中学校期とは、その中の部活動とは」という視点をすえるべきです。さらに、少子化や過疎化による学校の小規模化などから生まれてきている部活動の課題をどう考えるか論議することが必要です。そういう方向で論議を行うなら、「通学区域の弾力的運用」という答えは出てこないでしょう。

 

(2) 部活動を学校選択の材料にすべきではない、中学校の部活動のあり方もゆがんでくる

中学校のあり方をめぐって、全国的には新自由主義的改革のもとで、「学校選択の自由化」(通学区域の撤廃)を行ったところがありますが、どこでもうまくいっていません。新自由主義的改革の破綻とともに、通学区域の撤廃を元に戻す動きもあります。日本の小中学校は、地域の学校として、地域と結びつき学校が運営されてきました。和歌山県教委も、小中学校と地域との結びつきや協力を大事にすることを指導してきました。

中学生にとって部活動は、中学校生活の大きな部分を占めるものでしょうが、そのことを第一にして学校を選んでいくことは問題があります。教育委員会や学校が、中学生と保護者に「部活動を第一に」という誤ったメッセージを送ることにならないでしょうか。

県内のある地域では、すでに部活動による学校選択を導入しているところがありますが、男子生徒の多くが他校に進学してしまい問題が生じています。

また、特定の中学校(強化指定校など)が、優秀選手を集める(スカウトする)ことも可能になります。その部は、確かに強くなるでしょうが、その校区に居住する「普通」の中学生にとってどうでしょうか。「勝ちたい」「強くなりたい」と頑張って子どもたちの競技力は伸びていきますが、このような強化方向は、教育的なのでしょうか。

中学校変更先の学校において、「部活動を退部した場合は、原則として就学指定校へ転校しなければならない」と「指針」ではなっています。ここにも、その子のその学校への就学理由・意義を、「部活動」だけで考えようとする非教育的な視点が見えます。

 

(3) 教職員の人事異動の硬直化と不平等をはじめさまざまな問題を引き起こす可能性が生まれてくる

「指針」の保護者向けQ&Aで、「在学途中で専門的な指導者が異動することもあるため、その保障ができない」と書いていますが、それで保護者の納得が得られるでしょうか。通学校の変更先を決める場合、とりわけ競技力の高い子がより伸びることを求めて学校を変わろうとする場合、指導者を求めていくことが当然多くなります。「学校を変えたが途中で、その先生が異動した」というトラブルが当然発生します。その結果、人事の硬直化や特別扱いが生まれてくることは、当然予想されます。

また、部活動の設定は、子どもたちの意見をききながらその学校の教職員が設置を判断しています。さまざまな事情で、廃部をすることになったとして、部活動を求めて通学区を超えて変わってきた子と保護者は、納得してくれるでしょうか。学校の部活動設定の権限が、実質的に無くなってしまわないでしょうか。

 

 

3、和教組の見解と意見

県教育委員会は、「指針」を撤回し、市町村教育委員会は、「部活動を理由とした通学区域の弾力的運用」制度を導入すべきではありません。

とりわけ、通学区域に希望する運動部があるにもかかわらず学校を変更できる制度は、入れるべきではありません。